住所差別?

9月10日の毎日新聞朝刊に、一人一票実現国民会議の意見広告が掲載されていた。

これによると、「鳥取県の選挙権を1票とすると、北海道は0.21票です。同じ地方同士でこの住所差別!」とある。

が、これはかなり意図的な数値だといえる。


【理由1】
上記の文章の前半部、正確には「鳥取県有権者がもつ「一票の価値」を1とすると、北海道の有権者の「一票の価値」は0.21です」とするのが正しい。
しかし、敢えて「票」という単位をつけることで、格差感を煽っている。



【理由2】
この数値の根拠は2010年7月の参院選の選挙区制における定数なのだが、参院選の選挙区制の定数は、鳥取1、北海道2。
しかし衆議院選挙の小選挙区でみると、その定数は北海道12、鳥取2である。
あの政権交代をもたらした2009年8月の衆院選のケースでは、鳥取の「一票の価値」を1とすると、北海道は0.63である(なお東京は0.57)。
たしかに格差はあるが、0.21と0.63ではずいぶんイメージが違う。
衆議院参議院に優越することに鑑みれば、「一票の価値」の平等を主張する同会議は、衆議院選挙の数値を引き合いにだすべきであろう。


【理由3】
この数値は、人口を度外視している。
2009年8月の衆院選における鳥取有権者数は486,870人。
これに対して東京の有権者数は10,601,391人。約21.8倍である。
有権者の「一票の価値」を等しく1にするためには、鳥取選挙区の定数が2のままであれば、東京の定数は現状の25から44にしないといけなくなる。
これでは、ますます東京の意向ばかりが政治に反映されることになる(実際には鳥取選挙区の定数を1にし、東京選挙区の定数を22とすることになるのだろうけど)。


要するにこの会議は、都市部の意向をもっと政治に反映させたいからこそ、このようなことを全国紙の一面まるまる買い取ってアピールしているのだろう。
「平等の実現」という大義名分を掲げて地方の人たちから権利を奪おうとしているわけだ。
「数の暴力」の典型であり、悪辣だとしか言いようがない。


なおこの団体が一面広告をつかって訴えようとしているのは、次の衆議院選挙のときにあわせて実施される最高裁判所判事の国民審査の際に、「一人一票」に反対している最高裁判事に不支持をつきつけて罷免させようというものだ。
このようなシングルイシューで最高裁判事の信任・不信任を動かそうとしていること自体、大きな問題ではないだろうか?


ともかく、この意見広告はかなり意図的な内容となっている。
社会調査法の授業でもつかえそうな「数字のトリック」の典型例だといえよう。
今後もこの団体の動きを注視していきたい。