革靴修繕顛末記

靴を中心とする革製品の修理や合い鍵の作成などを行うリペアショップと呼ばれる形態のお店がある。

リペアショップの経営は、いろんな意味で難しいと思う。
商品を売るという普通の小売店であれば、新商品の入荷や見切り品の安売りなど、お客を誘引する手段は多い。

しかしリペアショップは、どこか別のお店で売れた商品を修理することで儲けをだすため、お客を誘引する手段が限られている。
基本的には、誰かの持ち物が壊れたり、不具合が生じたりするのを待つよりほかないのだ。

同じような職種に、医者がある。
しかし医者の場合、身体に不具合が生じた人がお客なのでまだいい。
身体の不具合が生じた場合、程度にもよるが、多くの人は不具合を治療すべく病院にいくことになるからだ。

しかしリペアショップの場合、壊れた物、不具合が生じた物は、修理に出されることなく廃棄されてしまう可能性がある。
靴底がすり減ってきたら、それは買い換えのいいタイミングでもあるのだ。

でも、お気に入りの物を修理してでも使い続けたいという人はやはりいるし、買うときには気づかなかった不具合が後になってみつかったときには、修理なり調整をお願いすることもあるだろう。

自分の場合は後者のケースであった。

プレゼントとしていただいた革靴が、どうしても痛いのである。
買ってもらったときに自分も履いてたしかめていたのに、しばらく歩いていると、指の付け根のあたりに靴の前方部分の革が食い込んできて痛いのだ。

何日か我慢して履いてみたが、いっこうによくなる気配がない。
これではもったいないし、買ってくれた人に対して失礼である。
それに、デザインはとても気に入っているのだ。

かくして近所のリペアショップに革靴を持ち込んだのは、二週間ほど前のこと。

店には若い男性が一人で黙々と仕事をしていた。
首にかかっているネックレスには、指輪が通されていた。

声をかけ、症状について話をすると、原因についていくつかの可能性を示してくれた。
とりあえずは靴自体を少し広げるため、専用の機械にいれてみようということになった。
これで1,050円を支払う。

2,3日していってみたが、やはりまだ痛い。
もう少し広げてみようということで、また機械にかけてもらう。
それでもだめだったら、専用の器具をつかって、局所的に革をやわらかくしようということになった。

また2,3日後にいってみたが、それでもまだ痛いので、件の器具を使って、人力でやわらかくしてもらうことにする。

数日後、期待に胸をふくらませながらお店にいって履いてみる。
たしかにこれまでとは比べものにならないくらい、よくなっていた。
でも、ベストではない。
やわらかいところを歩いている分にはいいのだが、アスファルトの上を歩くと、どうしても食い込んでくるのだ。

では、ということで、中敷きの下にクッションをいれ、靴と足の隙間をなくすことで対処してみようということになる。
これで一日履いてみてといわれ、その通りにする。
この頃にはお互い、意地になってきていた。

でも、それでもやはり痛みがある。
歩いているうちに慣れては来るのだが、ここまできたらベストの状態にもっていきたい。

ただ、歩いているうちに、足をなるべく後ろの方にし、つま先の部分に余裕ができるような歩き方をすると、あまり痛くないということがわかってきた。
そのことを伝えると、じゃあ試しに、といって、靴の前の方に入れていたクッションをはずし、逆にかかとの方に入れてくれた。
足に傾斜をつけることで、前方の上のほうに空間ができやすくしてくれたのだ。

これが答えだった。

まったく痛くないというわけではないけれど、これまで試したどの方法よりもいちばんしっくりくる。

しばらくはいているうちに、足から出る汗をすいこんで少しずつ革もやわらかくなってくるから、しばらくはこれで試してみればいいんじゃないかといわれ、自分も納得して代金を支払おうとした。

が、受け取ってくれない。
最初にもらった分で十分だという。
それではあまりに申し訳ないので、何度も払おうと申し出たのだが、ベストにすることができなかったので、どうしても受け取れないという。

これまでの経緯で十分にわかっていたのだが、本当に職人肌の方なのだ。

じゃあ、少しでも宣伝しておきます、といって店を出てきたのがついさっきのこと。

ということで、宣伝です。

リペアジャパン 大井町
http://www.re-japan.jp/index.html


お近くにお住まいの方、京浜東北線東急大井町線りんかい線をお使いの方、困ったことがあればぜひリペアジャパンへ。
職人肌の店長が、丁寧に、誠実に、仕事をしています。

ホームページによると、靴作り教室もやっているんだとか。
掲載されている講師のお兄さんは、店長ではありません、念のため。