南の島の若き闘士

ある青年のおはなし。

都会で生まれ育った彼は、高校生のとき、先生と衝突し、学校にいかなくなってしまいました。
困った母親は、知り合いのいる南の島に、息子を送り出すことにしました。
少年は南の島で、異国の軍事基地に反対する人たちに出会います。
少年はしだいに、反対する人たちとともに行動するようになりました。
そこには、「ほんとうのこと」のために生きる、ほんとうの人間がいたからです。
島の人たちも、少年をかわいがりました。
特におじいさんやおばあさんは、自分の孫のように少年を慈しみ、育てました。



少年は、南の島で成人となり、立派な青年になりました。
その頃にはもう、青年は、反対運動にとってなくてはならない存在となっていました。



基地をつくろうという動きが活発になってきたのも、ちょうどその頃です。
青年は、毎日海に出て、基地をつくろうとしている人たちに呼びかけました。
「あなたたちだって、海を埋め立てたくなんてないでしょう」と。


こうした青年の働きと、島のあちこちから、そして島の外から集まってきた仲間たちの活躍で、基地をつくる動きはどんどん弱まっていきました。

そしてついに、計画は中止になりました。
青年たちは喜びました。



でも、本当は中止になどなっていなかったのです。

しばらくすると、別の計画が立ち上がりました。
それは、もっと集落に近いところに基地をつくるという、もともとの計画よりもひどいものでした。

青年は怒りにうちふるえ、戦いを続けることにしました。
しかし、敵は以前より厳しく挑んできました。
カヌーや小さな船で戦っている人たちに対して、大きな大きな軍艦で攻めてくることさえありました。

そんな大きな力を目の前にしたなかまたちは、手続きや調査のために攻撃が一時中断したこともあって、少しずつ離れていってしまいました。



青年は、島の人たちだけではもはや戦えないことに気がつきました。
そこで青年は、都会の人たちといっしょに戦って、世界に訴えようと思いました。

ちょうどその頃、はるか北の大きな島で、世界の大国の首脳が集まる会議が開催されることになりました。

青年は、都会に戻り、仲間たちといっしょに北の島で開かれている会議に反対するデモに参加しました。
会議に出席している大国が、小さな国々に対して行っている卑劣な仕打ちへの怒りと、大国に住んでいる人たちに南の島で起きていることを訴えるためです。



しかし青年は、そこで警察に逮捕されてしまうのです。



警察の厳しい調べにも屈することなく、青年は黙秘を続けました。
そして20日後、青年は解放されました。
何の罪も犯していないのだから、当然です。

青年は、家族となかまの待っている南の島に戻りました。
そう、彼は戦いのなかで、尊敬できる女性と知り合い、結婚したのです。一人息子も生まれた青年は、南の島で戦いながら生き続けることを選んだのです。

家族は温かく迎え入れてくれました。
親しいなかまたちも、歓迎してくれました。



でも、昔から南の島で基地に反対する運動を続けていたおじさんたちは、青年を拒みました。



都会にいって、過激な奴らとつきあい、逮捕された青年は、自分たちの運動を汚したのだと、おじさんたちはいいのけたのです。

青年は激しく怒りました。
そして、おじさんたちと決別しました。
なかまたちも、青年を助けながら、ともに戦いを続けていくことを約束してくれました。
青年は今でも、南の島で戦いを続けています。

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誰が青年を闘士にしたのか。
それは「おじさんたち」である。
彼の純粋な心と若い力につけ込み、もてはやし、闘士に仕立て上げた。
戦いとは違う世界があることを、「おじさんたち」は彼に教えることはしなかった。
自分たちは「戦いとは違う世界」にも、片足を置きながら戦っているのにもかかわらず。

「おじさんたち」の思惑どおり、彼は純粋な闘士になった。
しかし、純粋すぎたのだろう。
「おじさんたち」は、彼をコントロールすることができなくなってしまった。
そして、彼を切り捨てた。



いったいなんなんだ、この戦いは!
誰が、誰のために、何のために、戦っているのだろうか。
純粋な闘士を育て上げることと、純粋な兵士を育て上げることに、なんら違いはない。
あなたたちがやっていることは、あなたたちが憎む「軍隊」と、同じなのではないか。



僕は、数年前まで、彼と親しく話をしていた。
彼の成年を、ともに祝ったこともあった。
しかし彼は、どんどん闘士の顔になっていった。
ときおり南の島を訪れるだけの、戦うこともしない僕は、しだいに彼に近づけなくなった。



僕も、「おじさんたち」と、同罪なのかもしれない。
彼がそうなってしまうことに気づいていただけに、より罪は重い。

次に南の島にいったときには、彼に会ってこようと思っている。
ほんとうに「いまさら」でしかないのだけれども。