決算カード

先日提出した博論では、名護市の財政分析を行っている。


結論としては、普天間移設がらみの振興事業や米海兵隊基地キャンプ・シュワブを中心とする米軍基地に提供している市有地に対して支払われる軍用地料収入(費目は財産収入)の多さにより、人口規模と比して過大なほどの財政規模を誇っているにもかかわらず、振興事業によって建設されたさまざまな施設の維持費と、振興事業を実施するために起債した市債の償還に当てる費用の増加により、財政の健全度はひじょうに低いことが明らかになった。


さらにそうであるがゆえに、名護市財政は基地への依存度が高く(基地がらみの収入がなければやっていけない)、結果として既存の基地も、新たな基地負担も拒絶できない状況にあることが示された。


こうした財政分析を行ううえでひじょうに便利だったのが、決算カードである。


決算状況調査表(決算カード)とは、都道府県・市区町村ごとの歳入・歳出決算額、各種財政指標等の状況について、1枚のペーパーに取りまとめたもののことだ。
自治体の歳入、歳出の詳細な情報がわかるほか、財政力や財政の健全度をはかる各種指標も掲載されているので、これ1枚でたいていのことはわかる。

この決算カードのさらに便利なところは、すべての自治体の決算カードが、総務省のサイトよりPDF形式で入手可能なところにある。
平成13年度からそろっているので、経年での比較もできる。


しかも、カードの右上にある「市町村類型」に記されている数値をもとに、同じ数値がつけられている自治体を探し出すことで、人口規模や産業構造の類似した他の自治体との比較も可能だ。


これに、財政比較分析表を加えれば、類似した自治体のなかにおける自分の自治体の相対的な位置が一目瞭然となる。


と、このようにたいへんに便利な決算カードではあるが、1枚のペーパーに可能な限りの情報を詰め込んでいるので、読み解くには前提となる知識が必要である。


それぞれの費目や指標の示す意味については、コチラに詳しいのだが、とりあえず見てもらいたいのは、
・経常収支比率(左下中央より)
・財政力指数(右下右より中段)
という2つの指標だ。


経常収支比率というのは、地方税地方交付税を中心とする一般財源に、公務員や議員の人件費や社会保障費などの扶助費、そして地方債の返済費用という、どうしても自治体が支払わなければならない義務的費用がどれくらいを占めているのかを指した数値だ。
ようするに、どれだけ財政に自由度があるかを示した数値のことである。
数値が低ければ低いほど、自由に使えるお金があるということになる。


財政力指数は、自治体の財政力を示す指数である。
財政収入を財政需要額で割ってでた数値の過去3年間の平均値がでている。
これは高いほどいい。高ければ高いほど財源に余裕があるといえる。
(どの程度の数値があればよいのかについては、財政比較分析表を参照のこと)


この2つの指標を見るだけでも、調べたい自治体の財政の健全度はおおむね把握できる。
あとは、なぜ健全度が低いのかを、歳入や歳出の内訳をみたり、公債費負担比率など、自治体の借金に関する指標をみたりしながら、分析すればよい。


こうやって自分の住んでいる自治体の財政状況を具体的な数字で把握することは、不景気だ、地方は大変だというイメージを具現化するうえでとても重要だと思う。
その上で、何が問題なのかを把握し、場合によっては自治体に意見をいう。


こういう教育は、本来、高校の現代社会の授業などでなされるべきだと思う。政治家が悪い、官僚が悪い、公務員は仕事をしない、などとイメージで批判をするのではなく、現状を的確に把握したうえで批判をしたほうがはるかに建設的である。
しかも、そのための情報は、総務省や各自治体がタダで提供してくれているのだ。


決算カードも財政比較分析表も、ネットで簡単に手に入ります。
自分の生活している自治体や、生まれ育った自治体のデータをみてみると、ずいぶん見え方が変わってきますよ。