『沖縄イメージを旅する』

はい、ひさびさの本ネタです。誰がなんといおうとも「くまよむ」ですからね、このブログはっ


先日、満を持して発売された多田治『沖縄イメージを旅する 柳田國男から移住ブームまで』。
ありがたいことに著者の多田先生より御献本いただきました。
しかも後書きには私の名前まで入れていただき、感謝感謝です。

そのお礼を兼ねて、僭越ながら本書を当ブログにて紹介させていただきます。


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本書のすばらしいところは、まず、その情報量の豊富さ。

副題に「柳田國男から移住ブームまで」とあるように、柳田が沖縄に「日本の原型」をみた大正時代から、現在の八重山地方を中心とした移住ブームにいたるまで、沖縄をまなざしてきた多様な「旅人」が、沖縄に対して抱いてきたさまざまな「イメージ」が、豊富な歴史的資料や聞き取り調査、アンケート調査などを通して得られたデータに基づきながら、具体的に提示されています。


こうした豊富な情報の裏付けを得ながら、本書で展開されているのは、相互に浸透しあいながらも、(だからこそ)依然として壁を維持し続けている、沖縄と日本との関係性がもつ意味。
そして、沖縄をまなざす日本の視線がもつ、(ときには無意識的にもたらされる)政治的な意図。
こうしたことがらが、「二重性」や「パラレル」といったキーワードを活用しながら、見事に分析されています。


沖縄も、日本も、ツーリストの視点からともに描き出していくそのタフな姿勢が、こうした分析を可能にしているのだといえるでしょう。


そう、多田治は、タフなのです。
日頃の言動や行動力、仕事量などを見ても、そのタフさはわかります。
しかし、そういう意味だけでなく、研究者として、ひいてはその研究それ自体がタフだなと思います。

なまじ社会学などを知ってしまうと、自らの視線や立場の権力性に気がついてしまい、リゾートを単純には楽しめなくなってしまったりします。
特に沖縄に対しては、その歴史的な経緯や基地をめぐる現在の問題などに触れたとき、本土に生まれ育ったヤマトンチュは、「立ちすくんで」しまうんですね。

僕自身、そうやって立ちすくんだ経験は何度もあるし、立ちすくんだままカッコにいれちゃってる部分もないわけではありません。

多田さんも沖縄に赴任してすぐの頃に、 同じような立ちすくみを経験しています(序章)。
でも、「外から立場だから見える、わかることもあるだろう」(P.25)と、そこから開き直って、沖縄を研究し始め、博士論文を書き、『沖縄イメージの誕生』を上梓しています。

そこからさらに本書では、さまざまな葛藤の末に東京に拠点を移したことによって得られた、自らのツーリスト(旅行者)としての立場に積極性を見いだし、「東京と沖縄を行き来する移動性に身をゆだねながら、両地点をつなぐ関係性の上に立って」(p.34)沖縄を、ひいては日本を見ていくという「方法としてのツーリスト」という手法を見いだしているのです。


ほんとにタフですね。自らが置かれた立場を、僻むこともせず、かといって安住もせず、常にポジティブに活用していきながら、新たなる視点を手に入れ、展開していくその姿勢は、学ぶところが多いです。


やや難しいところもありますが、特に社会学や沖縄についての知識がなくとも、十分に理解できる本だと思います。
なんといっても資料が豊富なので、それを見ているだけでも楽しめます。
それに著者自身の経験に基づいたエピソードや、インタビュー、アンケートの成果も盛り込まれているので、親近感を持って読めるところも多くあります。


沖縄のことが好きな人、今度沖縄にいこうと思っている人、沖縄が気になっている人、「先生、沖縄いってくるんだ。いーなー」といったことのある学生たち(笑)は、必読です。ぜひ手にとって、買って、読んでみてください。