父の栄誉

父はたいへんに手先の器用な人である。
どのくらい器用なのかというと、多色刷りの版画で年賀状を毎年出すくらいに器用なのだ。
器用さに加えて根気強さもあるので、かつては花弁を一枚一枚彫ってつくりあげた菊の花をハガキに咲かせたこともある。
亡くなった祖父は紳士服の仕立屋をしていたので、その血をひいているのだろう。
残念ながらその血は、僕には伝わらなかったのだけれど。


その父がここ10年ほど取り組んでいるのが篆刻(てんこく)だ。石を彫ってつくる篆刻に打ち込んでいるところをみると、どうやら彫るのが性に合っているらしい。


宮崎で、2人の先生の指導を受けながら、県の美術展や宮日新聞主催の美術展、NHK学園が全国から作品を集めている「生涯学習書道展」などに、毎年こつこつと作品を出品してきた。


その甲斐あって、今年の3月には県の美術展で特選をいただいた。
それだけでも大変に喜ばしかったし、本人もたいそう喜んでいたのだが、特選の知らせから2週間も経たないうちにNHK学園から届いた審査結果は、さらに喜ばしいものであった。


東京都知事賞」


これにはさすがに驚いた。調べてみたところ、都知事賞は、書道と篆刻を含む全作品から1点だけ選ばれる「文部科学大臣賞」の次に値する賞で、受賞者は父を含めて5名しかいないということがわかった。
ちなみに文部科学大臣賞を受賞したのは父を指導している方の篆刻で、おうおうにして書道より低く評価されがちな篆刻が受賞したこと自体、画期的なできごと。
これで篆刻界は宮崎がリードすることになるだろう(ならないか)。
なお、受賞作は以下の写真。

授賞式は、書道展の会場でもある東京の科学技術館で挙行された。
宮崎から授賞式のために出てくるのはさすがに難儀なので、代わりに手先の器用ではない息子が授賞式に出席した。

父の努力が評価され、息子が代理でその栄誉に預かる。
なんとも、晴れがましい思いだった。


根気強い父のことだから、これからもまた新しい作品を彫り続けることだろう。

がんばれ父ちゃん、彫れ彫れ父ちゃん♪ 代理出席ならいつでも歓迎するよ。