ジュゴン、第1ラウンドを制す

hirokuma2008-01-26

昨日、普天間基地移設問題についての重要な判決がでました。

沖縄ジュゴン(沖縄近海に生息するジュゴンを指します。他の生息域と物理的に分離しているのでこのような呼称をつけたようです。もちろん今回の基地建設にともなって生存が脅かされるジュゴンを特定することで、訴訟を有利に進めようという判断もあったと思われます)および沖縄の住民、ジュゴン保護団体、基地反対団体、日本環境法律家連盟、米国の環境保護団体(Center for
Biological Diversityなど)が原告となって、アメリカの国防長官を相手取った訴訟で、原告勝訴の判決がでたのです。

争われていたのは、アメリカ政府の活動による文化財の破壊を禁じたアメリカの法律、国家歴史的遺産保存法(NHPA)。これに今回の辺野古沖への基地建設が違反しているという判決が下されたわけです。この法律には、「同等の意義を持つ他国の法で保護された文化財も保護対象」とする「域外適用」の項目があるので、これが今回は適用されたわけですね。ジュゴンちゃんは日本の文化財保護法で指定された「天然記念物」ですから。

動物を原告とする自然の権利訴訟としても、NHPAが初めて国外での米政府の活動に対して適用されたことももちろん重要ですが、やはり、もはや打つ手なしというところまできていた普天間基地の移設問題に、ようやく希望の光が射してきたことが重要です。2003年9月に提訴されて以来、ずっと長く闘いを続けてきた原告のみなさまの努力が報われたことに、胸をなで下ろしています。

この問題において、ジュゴンを守ることは、主目的とはいえないところがあります。基地反対運動団体がジュゴンを利用しているという側面は否定できませんし、辺野古や沖縄の人たちにとってもジュゴンは身近な存在でもシンボル的な動物だというわけでもありません(Earth Justiceのサイトにはcultural iconなんてかいてますが)。なので、ジュゴンが守られたからといって、沖縄の人々がすべて喜ぶといったようなことにはなりません。

しかし、そのジュゴンの保護によって辺野古の海が守られれば、それは多くの沖縄のひとびとにとって喜ばしいことだと思います。もちろん基地建設に期待している人たち(主に土建業従事者)にとっては喜ばしいことではないでしょうが、その彼らの「期待」は、「どうせつくられてしまうんだから」という「あきらめ」の裏返しという側面もあるように感じています。やや楽観的にすぎる見方なのかもしれませんが。

もっとも、おそらく国防総省は控訴するでしょうから、上級審でひっくりかえってしまう可能性は十分にあり得ます。

ただ、今回の判決で、国防総省は基地建設がジュゴンに及ぼす影響について90日以内に報告することを命ぜられている点は重要です。現在日本政府によって行われている環境アセスメントは、実に杜撰なものです。骨抜きなどというものではすまされない、むちゃくちゃなアセスが進められています。

このアセスを国防総省アメリカの裁判所に提出したとすれば、さらなる厳しい命令がくだされるでしょう。かといってNHPAにかなうようなアセスを行えば、今回の基地建設が沖縄ジュゴンにおよぼす影響の大きさが明らかになり、建設が難しくなる。

なので、おそらく控訴する理由は、今回の訴訟では否定された「沖縄ジュゴンはNHPAが定める文化財にはあたらない」という国防総省側の主張の是非を問うか、あるいは今回の基地建設の行為主体は日本政府であるので、NHPAが定めるところの「米政府の活動」にはあたらないと主張してくるのではないかと考えられます。


いずれにせよ、事態は流動的です。みなさまにもどうか、注目しつづけていってほしいと思います。


追記:その後はいってきた情報や判決文をよくよく読んでみたところ、今回のは、いわゆる「判決」というよりも、審理停止命令なのですね。つまり、国防総省は90日以内に、端的に言えば「ちゃんとした」アセスをしたうえで基地建設が沖縄ジュゴンに与える影響を明らかにし、裁判所に対して報告しなければ、審理はすすめません、ということのようです。

ともかく、「ちゃんとした」アセスを行うよりほか、選択肢はなくなったわけです。これからのアセスの行方に注目ですね。