詭弁のデパート

hirokuma2006-04-09

そのことを知ったのは、いきつけの中華料理屋でのことだった。


バイトを終え、八宝菜に舌鼓をうっていた僕は、左肩ごしに飛び込んできた「普天間」という言葉に即座に反応した。


「・・・普天間飛行場の移設に合意しました。滑走路は住民への騒音を避けるためにV字型の2本になります。」


なんじゃそりゃあ!?


移設への合意を島袋市長がするであろうことはわかっていた。そのことは別段驚くべき程のこともない。驚いたのは、滑走路の数が増えたことだ。


おそらくはベクテル(アメリカの基地設計会社)が出してきた案なのだろうが、実に巧妙な案だ。地域住民に配慮しているという言説をなりたたせながら、規模を拡大しているのだから。


住宅地の上空を飛ばなくてもすむように、離陸用と着陸用という2本の滑走路をつくるというこの案は、島袋市長に合意することへの「言い分」を用意している。
彼は4月4日に防衛庁で額賀長官と会談した際に、「豊原、辺野古、安部の三区の上空を飛ばないことが大原則で、それを堅持していく」と述べている(沖縄タイムス4月6日朝刊)。
これは裏を返せば、三区の上空を飛ばないのであれば、受け入れる余地はありますよ、といっているのと同じである。それをうけて防衛庁は、三区の上空を飛ばない案を出してきた。だから島袋市長は「合意します」と言えたのだ。事実市長は、「名護市および宜野座村の要求にある民間地区の上空を飛行しないことが示された」から合意したのだといっている(タイムス4月9日朝刊)。


しかもこのV字型案は、島袋市長の支持母体である土建業者にとっても肯定できる案だ。そもそも島袋市長は、沿岸案では住宅地に近すぎるので、もっと海側につきだした形での修正を希望していた(自然環境が保全されること、を条件の1つに掲げていたにもかかわらず、である)。この案は、騒音や墜落の危険性を回避するという目的だけでなく、埋め立てる面積を増やすという意図もあってのことだったと思う。埋め立て面積が増えれば、土建業者の仕事も増える。だから、海側にずらす。V字型案も同じことである。増えた滑走路のぶん、埋め立て面積も増えるのだ。


さらに、おそらくは頭の良い誰かの入れ知恵だろうが、島袋市長は、誰がどう見ても「沿岸案」のバリエーションでしかないこのV字型案を「海上案」のバリエーションだと発言している。「沿岸案」には反対するという公約を掲げて当選した彼は、先日亡くなった岸本前市長の意思を継ぐ存在である。その岸本前市長は「海上案」を容認していた(県知事もそうだ)。だから島袋市長は、「海上案のバリエーションだ」と発言し、自らの公約との整合性を図ろうとしているのである。


こんな詭弁は通るまい。そう思いたい。しかし、詭弁を弄して様々な問題を「なかったこと」にしてきた小泉首相と、それを許し、あまつさえ支持さえしてきた日本の国民を見ていると、こんなむちゃくちゃな詭弁さえ通ってしまうのではないかという気持ちにさせられる。


今のところ、稲嶺沖縄県知事は反対の意思を貫いている。しかし額賀長官は、

「知事は(米軍再編)全体の話をするのであり、『普天間』とか個別問題を考える立場にはない」(タイムス4月9日朝刊)

と、名護市との合意で、米側との最終報告までに県の了解は必要ないとの考えも示唆している。これもまた相当な詭弁だが、こういう発言に対する批判は、いまのところどこからも聞こえてこない。


もちろん、米軍再編全体の話をするのが知事なのだから、普天間基地移設問題についても当然に知事の同意は必要とされる。だから、10月には実施されるであろう沖縄県知事選挙が、大きな山場になるだろう。おそらく保守側は、普天間を除いた米軍再編における基地負担の軽減を表に出してくると思われる。これもまた詭弁である。普天間が最大の問題であるし、何より辺野古に移設したところで、なんの負担軽減でもない。


詭弁であろうがなんであろうが、「言い分」さえたってしまえば言説としてまかりとおってしまうことこそが、最大の問題なのかもしれない。こんな詭弁は言説ですらないということを、まずはマスコミ各社に自覚してもらいたい。「稲嶺知事にとっても望ましいことではないか。」などとのたまっているhttp://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060407ig90.htmなど、もってのほかである。