世にも美しい数学入門

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

博士の愛した数式』を書いた小川洋子さんと、数学者藤原正彦お茶の水女子大教授の対談をまとめた本。これも既読ですが、『博士の〜』の関連で。

『博士の〜』を読んだときも思いましたが、こういうふうに数学のことを考えたことってなかったなぁ、こういうふうに考えられてたらもう少し数学に興味がもてたかもしれないなぁ、と、あまり数学が好きではなかったくまは思うのであります。証明は好きだったんだけど、微分積分あたりの、特殊な記号がでてくるあたりからやる気をなくしました。

それにしても数学とは奥が深い。藤原先生は、数学とは神様の手帖の中に記されているものであり、数学者は、その神様の手帖の中にあるものを、どれだけ見ることができるのか挑戦しているのだといいます。そしてその手帖を「どの程度、自分たちの力で見ることができたのかは、その星に住んでいる生物の知的成熟度のバロメーター」(p.167)であり、どこかの宇宙人と地球人との知性を比較するときの基準になるとまでいいます。この、数学と神とを結びつけて考える数学者の美しさ。

あともっとも印象深かったのは、“正しいとも正しくないとも判定できない命題が存在する”ということを証明したゲーデルの「不完全性定理」の話。つまり、解けない命題というものが存在するということを証明しちゃったわけです、ゲーデルは。そしてさらに恐ろしいのは、アラン・チューリングという数学者が、ある命題が解けない命題なのかそうではないのかをあらかじめチェックする統一的な方法はないということを証明してしまったこと。この2人の数学者は、数学という純粋論理の世界にあって、論理ではとけないことがあるということを証明してしまった、まさに、神の領域が存在するということを証明してしまったわけです。

そのことを知っていながら、数学者は、神様の手帖を少しでも覗かせてもらおうと、日々命題にとりくんでいる・・・数学者に対する見方をずいぶん変えてくれた、思い出深い本でした。